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下宿屋
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京都の秋の夕暮れはコートなしでは寒いくらいで 丘の上の下宿屋はいつも震えていました
僕は誰かの笑い顔が見られることより うつむき加減の彼をみつけたかったんです ひもじい気持ちもあまりに寒いせいか感じなかったようです ただ畳の上で寝転びたかったんです やさしすぎる 話の巧すぎる彼らのなかにいるより 薄汚いカーテンの向こうの裸電球の下に座りたかったんです 彼はいつも誰かと そして何かを待っていた様子で ガラス戸が震えるだけでも はい? って答えてました その歯切れのいい言葉は あの部屋のなかにいつまでも残っていたし 暗闇でなにかを待ち続けていた姿に 彼のうたをみたんです 湯のみ茶碗にお湯をいっぱい入れてくれて そこの角砂糖でもかじったらぁ って言ってくれました そのときありがとぅと答えて うつむいたのは胸が痛み出したことと 僕自身の後ろめたさと 乾ききったギターの音が彼の生活で そして湿気のなかにただひとつラーメンの香ばしさが うたってたみたいです 無精ひげの中からため息がすこし聞こえたんですが僕にはそれがうたのように聞こえたんです ※一杯呑み屋を出て行くあんたにむなしい気持ちがわかるなら 汚れた手のひら返してみたってしかたないことさ あせって走ることはないよ 待ち疲れてみることさ ため息ついても聞こえはしないよ それが うたなんだ 僕が歩こうとする道にはいつも彼の影が写ってたみたいです 小さな影でしたが誰だってその中に入り込めたんです それから彼の父親が酔いどれ詩人だったことを知り いま僕がこうしてるから彼こそ本当の詩人なのだと言い切れるのです あたらしいお湯がしゅんしゅん鳴ったとき ラーメンを作ってくれて そしてウッデイやジャックを聴かしてくれたんです それからぼくが岩井さんやシバくんと会えたのも すべてこの部屋だったし すべて僕にはうただったんです なにがいいとか悪いとか そんなことじゃないんです たぶん僕は死ぬまで彼になりきれないでしょうから ただその歯がゆさのなかで僕は信じるんです うたわないことが一番いいんだといえる彼を ※くり返し |